背景
手術中に体内にガーゼ(スポンジ)が残ってしまう「遺残」は深刻な医療事故であり、遺残物の約70%を手術用ガーゼが占める。体内で腫瘍や瘻孔(ろうこう)を形成して再手術が必要になることがあり、死亡例も報告されている。発生頻度は手術約1万件に1件であるが、1件あたりの追加医療費は20万ドル(約3,000万円)以上にのぼる。現在の予防策は、看護師によるガーゼ枚数のカウントと、術後X線写真の医師による目視確認である。しかし、正しくカウントしていても遺残が発生した事例が多数報告されており、ヒューマンエラーを完全には防げていない。バーコード管理などの技術的対策も報告されているが、追加機器のコストや専門家の作業負担増が導入の障壁であった。そこで本研究では、追加の機器やコストを必要とせず、AIで術後X線画像からガーゼ遺残を自動検出するソフトウェアの開発に取り組んだ。
アプローチ
今回紹介する論文[1]は、ディープラーニングの物体検出アルゴリズムFaster R-CNNの改良版を用いて、術後X線画像からガーゼ遺残を自動検出するCADソフトウェアを開発した研究である。臨床での遺残症例は極めて稀で学習データを十分に集められないため、正常な術後X線にガーゼのX線画像を合成した「合成X線画像」を約5,000枚作成し、4,554枚を学習用、470枚を検証用とした(図1)。さらに胸部ファントム画像12枚、ご遺体にガーゼを実際に挿入して撮影した画像369枚、正常術後X線画像1,776枚でも性能を検証した(図2)。結果は、胸部ファントム画像で感度・特異度ともに100%、合成X線画像で感度97.9%・特異度83.8%、ご遺体X線画像で感度97.7%・特異度90.4%と高い検出性能を達成した。骨やドレーンと重なったガーゼも正しく検出でき、処理時間は約10秒と臨床ワークフローを妨げない速度であった。


まとめ
本論文では、物体検出AIにより、術後X線からガーゼ遺残を感度97%以上で自動検出するCADソフトウェアの開発に成功した。追加機器不要で既存の術後ワークフローに容易に組み込めるため、医療安全の向上に大きく貢献することが期待される。
[1] Yamaguchi S, Soyama A, Ono S, Hamauzu S, Yamada M, Fukuda T, Hidaka M, Tsurumoto T, Uetani M, Eguchi S. Novel computer-aided diagnosis software for the prevention of retained surgical items. J Am Coll Surg. 2021;233(6):686–696.
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jamcollsurg.2021.08.689
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