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直腸癌の把握・壁深達度診断をするAIを画像生成によるデータ増強を用いて学習させる方法

2023.02.17論文解説

背景

大腸は成人で約1.5mの長さがあり、盲腸・結腸・直腸とに分かれている。直腸は、肛門の直前に位置し、便を溜める働きをしている(図1)。直腸癌は日本人に多く、大腸がんのうち約40%を占める。治療方法によっては人工肛門が必要になる場合もあり、癌の浸潤領域の把握やステージ診断をしっかり行って治療選択しなければならない。特に、予後不良因子の一つとされているがどの領域まで浸潤したかを表す壁深達度(図2) 重要だが、全ての施設で高精度に診断することは難しい

アプローチ

今回紹介する論文[1]では、AIによる領域癌の把握や壁深達度診断を行うアルゴリズムを提案している。AIの学習には様々な症例データが大量に必要となるが、進行癌等の希少症例は収集が難しいうえに、全てのデータに対してピクセルレベルでのアノテーションを行うことは現実的ではなく、学習データセットの構築がボトルネックになる。そのため、著者らは学習手法およびデータセットの構築について2つの工夫を行っている。まず、ピクセルレベルのアノテーションが無いデータであっても、壁深達度ラベルだけを用いて学習するT-staging lossを導入することで、学習データ作成コストを削減した(図2)。また、進行癌症例のデータが少ないという課題を解消するために、がんの進行形態を模擬したラベル変形とラベルから疑似的にMRI画像を生成し、学習データを増強した(図3-4)。これらの工夫により、壁深達度診断を行うアルゴリズムのT2以下/T3以上分類の感度は0.76 、特異度0.80を達成し、疑似進行がんデータの追加前後で浸潤部の抽出精度が約5%向上することを確認した(図5)。

まとめ

本論文では、壁深達度を用いた弱教師学習、がんの進行を模擬した疑似進行がん画像生成により、データセットの量や多様性の不足補い、直腸がんの壁深達度判定アルゴリズムの性能が向上した。AIが深達度判定を補助することで、全ての施設で高精度な診断・治療ができるようになるかもしれない。

 

図1. 大腸の構造と各部位の名称

図2. 壁深達度T2,T3症例における直腸がんと周囲の組織の包含関係[[1]より引用改変]
図3. T-staging lossを導入した直腸癌領域の抽出・壁深達度判定の学習アプローチ[[1]より引用改変]
図4. 疑似進行癌データの生成アプローチ [[1]より引用改変]
図5. 入力ラベルと生成された疑似進行がん画像例 [[1]より引用改変]
図6. 直腸癌領域の抽出とT分類の結果例 [[1]より引用改変]
 

[1] Sasuga, S. et al. (2022). Image Synthesis-Based Late Stage Cancer Augmentation and Semi-supervised Segmentation for MRI Rectal Cancer Staging. In: Nguyen, H.V., Huang, S.X., Xue, Y. (eds) Data Augmentation, Labelling, and Imperfections. DALI 2022. Lecture Notes in Computer Science, vol 13567. Springer, Cham.

DOI: https://doi.org/10.1007/978-3-031-17027-0_1


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