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間質性肺疾患診断のための人工知能および分類不能型間質性肺疾患のためのデジタルオントロジー

2025.11.13論文解説

背景 

間質性肺疾患(ILD)は多様な疾患群であり、進行と予後が不良なケースも多い。ILDの正確な診断と分類は、最適な管理と治療のために極めて重要であり、集学的検討※1Multidisciplinary Discussion: MDD)はILD診断におけるゴールドスタンダードである。しかしながら、その一貫性と一致性は十分でなく、多大な時間と労力を要する。さらに、最も重要な点としてMDDは全ての施設で利用可能でない問題がある。
本研究では、AI技術により、実際のMDDと同様、臨床情報・放射線(CT)画像・病理診断を含むマルチモーダル情報に基づく診断アルゴリズムの開発を目指した。開発アルゴリズムにはAIに入力される病理診断が専門家の診断という制限はあるが、MDDの代替を目的とするAIモデルとしては、我々の知る限り、初めての試みと考える。
また、我々は分類不能型間質性肺炎を本診断アルゴリズムに適用し、特定の疾患確率レベルでの解析を行い、このアプローチをデジタルオントロジーと定義した。

※1 集学的検討(Multidisciplinary Discussion: MDD):臨床医、放射線医、病理医が参加し、臨床情報、画像所見、病理所見などを総合的に評価して、最終的な病名を決定する検討。一定の病型に当てはまらず、分類不能型間質性肺炎と診断される場合もある。

アプローチ

床情報、CT画像、病理診断を含む630例のILD患者のデータを後ろ向きに分析し、4つの疾患(特発性肺線維症:IPF、非特異的間質性肺炎:NSIP、過敏性肺炎:HP、結合組織疾患(膠原病関連疾患):CTD)に分類するアルゴリズムを開発した。実臨床においても、臨床情報、CT画像、病理診断、それぞれ単独では、4つの疾患を正確に分類することは難しい場合が多く、これらの情報を総合的に評価して、最終的な病名が決定される。分類プロセスは、以下の2段階で構成され、性能は5分割交差検証を用いて評価した。

・第一段階:畳み込みニューラルネットワーク(CNN)モデルを用いたCT画像の肺炎パターン分類(図1)。本CNNモデルは、CT画像を入力すると、UIP※2NSIPHPCTD、それ以外の5分類に対する確率スコアを出力する。
※2 UIP:Usual Interstitial Pneumonia・通常型間質性肺炎。肺の繊維化を示す画像所見であり、特発性肺線維症(IPF)で中心となる病態。

図1.CNNモデルの構成概要 [1]

・第二段階:サポートベクターマシン(SVM)を用いた臨床情報・CT画像の肺炎パターン分類・病理診断を用いたマルチモーダル分類(図2)。本SVMモデルは、CNNモデルの出力結果と臨床情報、病理診断を入力すると、IPFNSIPHPCTDの4分類に対する確率スコアを出力する。

図2.SVMモデルの構成概要 [1]

CNNモデルとSVMモデルの平均正解率はそれぞれ62.4%、85.4%であった。SVMを用いたマルチモーダル分類では、特にIPFHPの感度が90%を超えるなど、全体的な正解率が非常に高かった。CT画像からの肺炎パターン、病理診断、臨床情報のいずれかを使用しない場合、SVMの正解率はそれぞれ84.3%、70.3%、79.8%であり、病理診断がMDDに最も寄与していることが示唆された。分類不能型間質性肺炎への適用では、「NSIP/OPの重複症例(NSIP/OP overlap):32例」、「MDDにおいてCTDが最も疑われる症例(unclass-CTD):60例」、「MDDにおいてHPが最も疑われる例(unclass-HP):47例」に対して分類を行った結果、NSIP/OP重複症例では、CTDへの分類が最も多く、次いでNSIPであった。興味深いことに「unclass-CTD」ではCTD、「unclass-HP」ではHPと、最も可能性の高い診断に分類される傾向が見られた(図3)。

図3.各疾患に対するSVMモデルの出力確率の箱ひげ図 [1]

まとめ

マルチモーダル情報に基づく開発アルゴリズムは間質性肺疾患の診断を支援することが可能であり、オントロジー診断に適していると考えられる。

[1] Baba T, Goto T, Kitamura Y, Iwasawa T, Okudela K, Takemura T, et al. (2025) Artificial intelligence for diagnosis in interstitial lung disease and digital ontology for unclassified interstitial lung disease. Respiratory Investigation 63(6): 1179-1186

DOI: https://doi.org/10.1016/j.resinv.2025.09.007


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