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多発性嚢胞腎(ADPK)を高精度に抽出する方法

2024.03.05論文解説

背景 

多発性嚢胞腎(ADPKD:autosomal dominant polycystic kidney disease)は左右の腎臓に多数の嚢胞(液体のつまった袋)ができる遺伝性の病気である(図1)。嚢胞が進行性に発生・増大することで腎臓の機能が低下し、60歳代までに約半数の患者が末期腎不全、透析に至るとされている。近年は進行を遅らせる治療薬として、腎臓での「バソプレシン」のはたらきを抑えるトルバプタン(サムスカ)という薬が登場した。腎機能の低下は腎臓の総体積と逆相関することが知られており、この薬を使用する際には腎臓の総体積(TKV)をCTやMRIで評価することが推奨されている。

図1. 正常とADPKDの腎臓 [[1]より引用改変]

アプローチ

TKVを5%以内の精度で測定可能であることが臨床的に求められることを踏まえ、今回紹介する論文[1]は、ADPKを高精度に抽出(セグメンテーション)するマルチタスク3次元畳み込みニューラルネットワークを提案している。提案手法のポイントは2つある。1つは腎臓領域と肝臓領域を同時に学習させること、もうひとつは医用画像のセグメンテーションで一般的に用いられるdiceロスではなく予測結果が悪いボクセルを対象にしたクロスエントロピーロスを用いること である。通常のクロスエントロピーロスでは、不均衡データ(画像に占める対象物体の体積がとても小さいようなデータ)でうまく学習できないという問題があるが、本論文では予測結果が悪かった領域だけを学習対象とすることで、この問題を解決している。これらの工夫により、TKVの予測誤差3.86%を達成した(図2, 3)。

図2. ADPKの抽出結果例 [1]

図3. TKVの予測誤差の散布図 [1]

まとめ

本論文では、ADPKを高精度にセグメンテーションする手法を提案し、臨床的に必要なTKVの予測誤差5%以内を達成した。将来的には、より高精度にADPKがセグメンテーションできるようになり、ADPKの管理・治療に役立つことが期待される。

[1] Keshwani, D., Kitamura, Y., Li, Y. (2018). Computation of Total Kidney Volume from CT Images in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease Using Multi-task 3D Convolutional Neural Networks. In: Shi, Y., Suk, HI., Liu, M. (eds) Machine Learning in Medical Imaging. MLMI 2018. Lecture Notes in Computer Science(), vol 11046. Springer, Cham.

DOI: https://doi.org/10.1007/978-3-030-00919-9_44


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